🔵 楽曲『 Fragments 』コンセプトノート
- 2023/02/22 10:00
- Category: concept note

《歌詞について》※全曲共通
どこの国や地域の言語でも、必ずそれぞれの言葉が「記号」として成り立っているものですが、そのように認識されている「記号」を除いて、"言語として解読できないもの" にすることで、声の抑揚や話している人の感情、または雰囲気のみで、何を言おうとしているのか表してみる、伝えてみる、という試みです。
これまで演出面において、独自の世界観を作った上で「メタ朗読」を行ってきた私ですが、日本語のテキストを読むにしても、その語りが音楽的に聴こえることを切要としてきた者としては、今回の手法をぜひ音楽として表現してみたいと考えました。
その手法を用いることによって、「国境を越える」という「音楽の特性」へ、さらに近づいた "新しい言語" のように、Audience の皆さんへ受け取っていただければ嬉しく思います。
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《タイトルと内容について》
「 Project《tmd》」第1弾楽曲『 Love to Vision 』と、第2弾楽曲『 In A Dorothy. 』に引き続き、第3弾の本楽曲も、まず「脳」の、取り分け「脳と記憶の関係」から、お話ししようと思います。
ヒトは、物理的な法則に従う生物的な物体 =「脳(=神経中枢)」によって制御されています。
今回取り上げる「記憶」は、その「脳」の中でも最も重要な高次機能のひとつです。
これまで「記憶」とは、「脳」に蓄積されて呼び出され、利用されるものと考えられてきました。
しかし神経科学分野の学術誌『Neuron』(参照:2017年7月19日付レヴュー論文)によると、「記憶」は「脳」に蓄積されるのではなく、「脳=記憶そのもの」である、という研究結果が報告されています。
そして「脳」とは "心そのもの" のことでもありますから、"「記憶」の集積こそがその人自身である" 、ということができます。
すなわちヒトは、 "記憶の断片の集合体” なのです。
ヒトの様々な感覚器官によって "集められた個々の記憶" は、脳の「中枢結合」という機能において、具体的なものをまとめて応用する能力となります。
しかし「脳」を構成している記憶は無数です。
意識的に知覚できるものから無意識的な記憶まで含めると、とてつもなく膨大な数ですので、「中枢結合」でいくら抽象的に圧縮されてもなお、さらに、無数の要素で記憶は成り立ち続けていくのです。
例えば「声」を聴けば、聴覚野が音波を電気信号にコンバージョンして脳へ伝え、記憶としてセーヴし、誰かと一緒にいるときホルモンは、「この人といるのは心地良い」という経験に文脈を添え、脳へ送って記憶します。
全てのあなたの無数の経験は、様々な方法で脳へ送られて「記憶」となり、あなた自身を形成していきます。
『 Fragments 』ー 欠片を集めて ー
本楽曲タイトル『 Fragments 』には、"小さな一片の集合体" や "他の物を砕いてできる部分的な何かの集まり"、という意味合いがあります。
ヒトにとっての想い出とは、断片的な記憶の連続であり、
断片的な記憶の連続こそが、想い出として溜まって行く...
対象へのノスタルジーは、あなた自身によって切り刻まれ、
いびつな追憶と化す場合もあるでしょう。
しかし「記憶」とは、
過去のある時点で活発だった脳の複数の部位の繋がりが、再び活性化するのが典型とされており、
何度でも追想され、
学習を繰り返し、
さらに強固になってあなたを作り続け、
対象への正確さをあなた自身で手繰り寄せたり、
忘れかけていた断片を捕まえて再構築し、
鮮明なイメージで対象を追体験する時間にもなるでしょう。
『 Love to Vision 』で申し上げたように、
「脳」で作られた幻想が真実なら、
それらの時、その対象は、あなたと共に在ります。
ヒトがそのメカニズムを所持できているということは、
脳細胞やシナプス等が、時間を理解できていることによる恩恵でもあり、
「時間」とは、
吃音でしか表せなかったあなたの対象への想いを
柔らかく包み込み、
緩和し、
ともすると消えてしまいそうな "Fragments" を何度でも蘇らせ、
さらにあなたを形成し、
あなたと共にある対象を再び認知させ、
あなたは一人ではないと
呼びかけ続ける、
そんなシステムです。
あなたに大切な人はいますか?...
「その人がいなくなると自分も消滅してしまうのではないか...」と思えるくらい、
あなたの "Fragments" を感受している誰か、が。
▪︎ Fragments - Kohya Arimura - https://youtu.be/wmJhGFemjIw
〈with Special thanks and respect to Satoshi Fukushima for his musical big cooperation.〉
▪︎ Saatoshi Fukushima http://www.shimaf.com/unit_prof.html
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《雑感》
秋田在住の福島諭さんとお知り合いになったのは、第1弾『 Love to Vision 』のpolymoogさん、第2弾『 In A Dorothy. 』の井川恭一さんと同じくSNS上でのことで、共通の友人が9人いたこともあり、時期的には最も早く、どちらからともなく「友達」としてJoinしていた流れでした。
当初から福島さんのプロフィールやご投稿には人としての美しさが強く感じられ、いつも気持ちよくご活動を拝読できており、心の中で応援させていただいているというくらいの漠然とした繋がりでしたが、この度「 Project《tmd》」へのご協力者を選考するにあたり、僭越ながらお声を掛けさせていただいたところ、ご参加をご快諾いただき、本作『 Fragments 』のような清麗で繊細な、アーティストとしての福島さんらしい作品をご提供いただく運びとなりました。
福島さんの制作スタンスはクリアで予想に違わず、このたび音楽という素晴らしいメディアの力を借りて、新しい言語(メソッド)へ挑もうとする依頼者の私へ対し、且つAudienceへ対し、またはご自身へ対して、「 "言葉と音響の関係性" が濃密であるように」と一貫した概念を大切に持ち続け、追求に止まないご姿勢でいらしたので、同志として非常に共感でき、純一無雑さを感じ、心から尊敬してもおります。
人との出会いは偶然であったり必然を感じたり、それぞれの人生が交錯するタイミンングも折々で、不思議でありながら絶対的でもあり、なかなか言い表せない複雑さを伴っていますが、おそらく私ごときが知り得る由も無い、何かしらか大きなものの意思でも働いているのではないかと思われるような、そんな織りで出来ていることには間違いありません。
現在繋がっている有難い知人諸氏然り、この度ご協力くださっている音楽家の皆さま然り、大切なあなたとのご縁と出会いの織りが、全人生の半分の幸運であろうと実感しつつ、心から感謝し、粛々と本プロジェクト「 Project《tmd》」を進めて参ります。